新しい心肺蘇生のガイドライン JRC-G2015

“新しい心肺蘇生のガイドライン JRC-G2015”

心肺蘇生法等の手順は5年に1回改訂され、新たなものが発表されますが、2015年版の新しいガイドラインが既に発表されています。
今のところオンライン版のみ公表されていますが、公表後の修正を加え、引用文献等を記載した完全版が来月出版される予定です。(オンライン版は一般社団法人日本蘇生協議会のウェブサイトから閲覧できます。)

http://jrc.umin.ac.jp/

「国際的な心肺蘇生のガイドライン」と言われることもありますが、現在のガイドラインは国際的に同じではなく、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が発する「CoSTR」という勧告に基づき各国の機関が自国の実情をかんがみたガイドラインを作成しています。ここでは日本蘇生協議会(JRC)が策定した日本版ガイドライン2015年版(JRC-G2015)について、変更点や特に注意が必要な部分をお話しします。

市民向けBLS(G2015)
※この図は、一般の方でもわかりやすいように文言等を一部修正するとともに、現場で必要な注意事項等を一部追加しています。

“119番通報について”

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市民救助者は119番通報を行い、消防官の口頭指導(電話越しでの心肺蘇生法等のレクチャー)を受けながら心肺蘇生を行うことが望ましいと、G2010から引き続き記載されています。
近年は携帯電話が普及しており、ハンズフリーのモード(スピーカーモードなど)も多くの携帯電話で装備されていますので、現場では「周りの人に119番通報を依頼する」と基本の方法だけでなく、救助者自身が携帯電話で119番通報を行い、ハンズフリーのモードで消防官から口頭指導を受けながら胸骨圧迫等を続けることも考えるべきでしょう。

“呼吸の確認について”

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「呼吸なし又は死戦期呼吸」の場合には心停止と判断し、直ちに胸骨圧迫を開始するとされており、さらに「わからないときは胸骨圧迫を開始する」ことが明記されました。
これは平成23年にさいたま市の小学校で心停止となった小学生に対し心肺蘇生が行われなかった事故などによるものと思われます。

突然の心停止の際には、「死戦期呼吸」と呼ばれる、しゃくりあげるような動作や、口をぱくぱくして首を動かすような仕草がよく生じます。そのため市民救助者が「呼吸はしている」と判断して心肺蘇生が行われず放置されるという事例が少なくありませんでした。(上記のさいたま市の事例も、死戦期呼吸を「呼吸をしている」と誤って判断したため対応が送れたいわれています。)

ある文献によると、倒れた瞬間が目撃された心停止の約55%で死戦期呼吸が発生するも、呼吸をしていると誤解されるために心停止傷病者の約20%は心肺蘇生を受けることなく放置されるといわれていますが、死戦期呼吸がない傷病者に比べ、死戦期呼吸がある傷病者は助かる確立が約5倍あるともいわれています。
かつてのガイドラインでは「呼吸があるかないか」と表現していたものの、死戦期呼吸の傷病者が放置されるケースが多く、G2005からは「普段どおりの呼吸があるかないか」という表現に変更されたものの、「死戦期呼吸が心停止のサインである」ことがなかなか浸透せず、放置される傷病者が未だ生じてしまっているのです。

(死戦期呼吸は東海警備の「動画でわかるZOLL AED Plus」でも映像で説明しています)
https://www.youtube.com/watch?v=HtyVA3IdTzA

“胸骨圧迫について”

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G2010では「少なくとも1分間に100回のテンポ」「少なくとも5cm沈むくらい」というように、速さと深さは上限が定められていませんでした。
しかし胸骨圧迫は速くなりすぎると圧迫の深さが不十分となり、血流が減少してしまいます。(自転車の空気ポンプをすごく速く動かそうとすると、最大のストロークでのポンプができなくなるのと同じです)
また、圧迫の深さも、過剰な強さで圧迫を続けると傷病者の身体に不要の損傷を与えるおそれがあるため、それぞれ限度が定められました。

速さは「1分間に100~120回のテンポ」、深さは「約5cm(6cmを超えないこと)」とされていますが、トレーニングにおいて圧迫が6cmを超えていないことを判断するのは困難なことですし、もともと市民救助者は生身の人間に対し胸骨圧迫を行う恐怖感から圧迫が浅くなり、それを防止するためG2010では「少なくとも5cm」という表現を用いていました。上限を強調しすぎると「限度を超えてはいけない」と強い圧迫を躊躇するおそれもあることから、もしかしたら市民向けの講習では圧迫の深さの上限はさほど重要視されないのかもしれません。

なお、ガイドライン内には「心肺蘇生の質に関するリアルタイムフィードバック装置の使用」についても記載されています。

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東海警備が取扱うAED「ZOLL AED Plus」は、胸骨圧迫の状況をリアルタイムで検知し、必要な行為を「もっと強く押してください」など音声で指示する機能を有したAEDです。

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圧迫の強さのゲージ(ディスプレイの最右部)についても既に5~6cmを適正としていますから、圧迫の深さの上限に関する定めにも対応済みです。

(ZOLL AED Plusの詳細についてはこちらをご覧ください)
http://www.tokai99aed.com/feature.html

“人工呼吸について”

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人工呼吸はある程度の訓練が必要であり、効果的な人工呼吸を行うスキルを持ち合わせていない市民救助者は、胸骨圧迫のみの心肺蘇生を継続するとされています。
この人工呼吸を省略した「胸骨圧迫のみの心肺蘇生」が近年普及し、市民救助者による心肺蘇生実施の件数も年々増加していますが、同時に誤解も広まっています。
それは、「いまは人工呼吸は不要である」という考え方です。

そもそも胸骨圧迫のみの心肺蘇生を普及させた理由として、「傷病者に口をつける人工呼吸は難しく、心的負担にもなるため、人工呼吸に抵抗感がある救助者が胸骨圧迫すら行わなくなることを防止する」「倒れた瞬間を目撃している心臓が原因の心停止(心原性心停止)であれば、血中に酸素があるため、胸骨圧迫のみでも傷病者を救うことができる」というものがありました。胸骨圧迫のみの心肺蘇生はあくまで「倒れた瞬間を目撃している成人の心原性心停止」を対象とした(我が国における心臓突然死の減少を目的とした)ものなのです。

しかし心停止はこれ以外の状態もたくさんあります。窒息や溺水などは呼吸停止から心停止に至る「呼吸原性心停止」ですし、子どもの心停止は圧倒的に呼吸原性心停止が多いので、人工呼吸で血中に酸素を取り込ませないと、いかに胸骨圧迫を行っても脳のダメージを防止できません。また、心停止から時間が経過している心停止も血中の酸素が消費されてしまっているので人工呼吸が必要です。したがって、このようなケースに対応すべき立場の方(プール監視員や学校教職員、保育士など)は人工呼吸スキルも習得すべきなのです。
胸骨圧迫のみの心肺蘇生はあくまで対応義務のない、善意で心肺蘇生を行う市民救助者用の手技であり、医療の専門家ではないものの職務の特性から傷病者の対応を行う義務がある方向けのものではないことをご承知おき頂ければ幸いです。

心肺蘇生に関し、G2010からG2015への大きな変更点は上記のようなものです。(ファーストエイド等についてはまた別の変更点があります)
手技の流れ自体は特に変わっておらず、細かな注意点が増えたといった感覚かもしれません。

(G2010での心肺蘇生はこちらから動画をご覧いただけます)
https://www.youtube.com/watch?v=HtyVA3IdTzA

なお、我が国の心肺蘇生教育は少々不思議な現象が起きています。
市民を対象とした心肺蘇生講習(消防機関の救命講習など)はこのJRCガイドラインに基づき行われるのですが、医療従事者の講習はAHA(アメリカ心臓協会)ガイドラインに則って行われるものが多いのです。AHAの講習は市民向けのものも開催されているため、日本人が知っている心肺蘇生の手順は皆同じというわけでもないのです。

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弊社が行う各BLSトレーニングサービス(心肺蘇生法やAED使用に関する出張講習)はこのJRCガイドラインの発表を受け、現在教材の仕様変更を行っているところです。春頃にはG2015に則った講習を皆様にお届けできる予定です。

 

 

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